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「雪……」

 外に出ると、フローリアンがぽつりと呟いた。

「白い、な」

 両の手で掬い、フードを取り去って吹き荒ぶ風にその身を晒す。
 それから、靴を脱いで。

「ちょっとフローリアン、そんな事したら――」
「…冷たいね」

 白ばかりの地面から、慌てて止めようとしたアニスに視線を移し、フローリアンは淡く微笑む。

「今はちゃんとあたたかいものを知っているから、余計にそう思うのかな」

 ゆっくりと、踏みしめるように。
 冷たいだろうに、その足取りはどこか楽しげにさえ見える。

「もう、一年になるんだね」

「……うん、そうだね」

 アニスがずっとフローリアンの傍にいるようになってから、一年。

「今日は連れて来てくれてありがとう!」

 その言葉はどこか、出会ったばかりの頃のような無邪気さを帯びる。

「雪を見てるとね、ひとりぼっちの僕を思い出すんだ」

「それは、辛くないの?」

 思い出は、時に残酷で。

「辛いほど、今の幸せを実感するから」

 笑顔は本当に、よく似てきた。

「あたたかい場所を、忘れずにいられるから」

 全部受け止めてくれた、あの、優しい――

「今日は本当に、ありがとう」






(…甘えても、いいのかな)

 銀世界に立つ、無垢なるその笑顔に。







≪あとがき≫
 web拍手御礼SS第2弾。冬担当。フローリアンというと、雪の中に立っている イメージがありまして。